VS合同F 『熊澤組全員集合。血の通ったボールが43人を一つに繋いでゆく』
2012/10/07
僕らはこの男の復帰を待ち望んでいた。43枚目のパズルを埋めるための航海に出て、欠けていた1ピースを探すために、たくさんの荒波に揉まれながらこの地にたどり着いた。
そして、ついにその1ピースを見つけパズルを完成させた。
完成することがなかった熊澤組の絵。ぽっかりと空いた場所は、心に穴が開いたような感覚であり、他の誰かが埋めることができないものであった。
そう、彼以外の誰にも・・・・
常に雲がかかったような空が、この試合前に雲一つない晴れ渡った秋空に変化したのだ。
長かった、苦しかった、だけれども、僕らは彼を一瞬たりとも忘れていなかった。言葉には出さなかったが、彼が復帰するまで勝ち続ける。そしてもう一度一緒に試合をすることを望んでいた。
中村和由、電撃復帰!!!!!
(写真提供・北川さん)
復帰は突然だった。
彼の姿をグランドで見た2,3年生は復帰への言葉に目頭を熱くし、人目をはばからず涙した。
『3年、中村和由です。股関節のけがをして、ずっとグランドに来ていませんでしたが、明日はみんなと試合がしたいのでよろしくお願いします』
大の男が見せる大粒の涙に心を打たれない者はいなかった。多くを語らなくても、この短いセリフにグッと込み上げてくる熱い感情、心臓の鼓動が一気に早くなる感覚。それもそのはずだ。2年間同じ時間を過ごした絆は切っても切れない関係である。
3年生の顔を見ると、いろんな意味で危なかった。普通の感情ではいられなかったのが事実である。この瞬間、次の試合に向けての『覚悟』と『決意』ができた。
(写真提供・大阪早稲田倶楽部)
試合の内容に入る前に、ここで中村和由という男の話に触れていきたい。本来ならば、このような場で個人を紹介するのは、HPの趣旨に反するが今日だけは許していただきたい。
彼は2年生からWTBのレギュラーであり、チームのムードメーカであった。愛嬌のある笑顔と人懐っこい性格で彼の周りにはいつもたくさんの部員が集まっていた。しかし、1月に股関節に異常が見つかり、医者から一切の運動を禁止され、復帰時期は未定と言われた。悩んで末に彼は休部した。チームの行動から離れた和由との交流は減り、春の大会、夏合宿は終わり、そして予選開幕となった。
和由は1回戦の応援も自分が行っていいのか悩んでいた。そんな彼を監督はグランドに応援に来るように話した。照れ屋で遠慮深い人間、パンフレットの集合写真も自分は練習に参加していないから写ることはできないと言ってきた男。2回戦には応援に来ると聞いたので試合に出場させることを監督に相談した。
実は彼が怪我した時に、どんなに優秀な選手が入ってきてギリギリで復帰したとしても、最後の大会で使うという約束をしていたのだ。彼がその約束を覚えているか定かではないが、彼の復帰を待ち望んでいたのは選手だけでなく、スタッフも同じ気持ちなのである。もちろん、彼がリザーブに入るということは、誰かの出場機会を奪うことになる。それ以上に、彼がチームに帯同し試合に出場することがチームを前進させると思い、全部員の前で彼をリザーブとして入れることを宣言した。
彼がこの一戦に復帰することを聞いた部員の心は、自分のためではなく、誰かの為に何かをする、ラグビーをするということを初めて学んだに違いない。人の想いを背負うことができるのがスポーツ最大の魅力であり、誰かの為に勇気を出して身体を張れるスポーツはラグビーだけなのである。
人を大きくする瞬間である。このような熱い集団と一緒に戦えることを光栄に思う。
(写真提供・大阪早稲田倶楽部)
決意表明で3年生の口から出る『和由』というセリフ。
『これで3年生全員が揃った。和由の為に全力を尽くします』
『和由が出場できるように全身全霊を懸けて試合してきます』
その言葉に和由は涙した。
コーチから
『出たくても出られない選手がいるということを初めてわかったと思う。ラグビーをしたくてもできない選手がいるということをわかったと思う。グランドで早稲田の代表として戦えることの喜びと幸せを噛みしめてほしい。タックルを怖がっているのは恥ずかしいことだ。タックルしたくても怪我でできない人がいる。身体を張りたくても、グランドに立つことすら許されない人間がいる。そう考えれば、逃げずにタックルできると思う。それぞれの責任を果たそう。誰かの為に身体を張り、誰かの為にタックルする。その想いが早稲田を支え、早稲田の伝統と文化の一つになる。明日は勝とう。』
決意表明が終わり、試合への準備は整った。
12時20分 キックオフ @堺東高校
対戦相手は合同チーム。しかし、侮ってはいけない。1戦目の点数を見る限りかなり手強い。そして、ここは大阪という地。合同チームであろうと経験者多数であり、うちのような素人軍団が油断できる相手ではない。
キックオフ直後からボールを支配するが、ゴール前に行ってもミスでチャンスを潰してしまう。勤勉、思い切りの良いDFに攻撃はギリギリで寸断され、前半の15分を過ぎても膠着状態が続く。それを打ち破ったのは3年生WTB村井。まじめ、謙虚、寡黙と3拍子揃った男が、この停滞した雰囲気を打ち破るトライ。そして、立て続けにトライをアシストとチームを引っ張った。この試合のマン・オブ・ザ・マッチ!前半を終わって12-0.次の点数がどちらに転ぶかで試合は違った様相になる。後半が始まる前に必ず先に点数をとるように指示した。メンバーを変えられるほどの試合展開ではなかったため、メンバーは変更しなかった。リードされる展開はどのチームでも苦しい精神状態に陥る。
(写真提供・大阪早稲田倶楽部)
後半キックオフ。
後半はモールから小池のトライ、そして前回の試合のMVP・上原のトライで相手を引き離して、ついにこの瞬間を迎える。
背番号25番がピッチサイドで交代の準備をすると、どこからともなく聞こえてくる『和由』コール。力強く握手した手、彼の後姿から3年間の苦しみや想いが伝わってきた。
時間は5分。それがチームとしての最大限の配慮。ファーストプレーを難なくこなすと、パス、ラン、スイープとプレーに参加した。トライこそなかったが、彼がグランドでプレーする姿を3年生は熱い眼差しで見つめていたに違いない。どのような感情が3年生の中に生まれたのかはわからない。しかし、彼らは和由の復帰を歓迎し、試合に出場させるために全力を尽くした。仲間の大切さ、一生付き合っていくであろう仲間として、彼らの中で一つの大きな出来事として刻まれたことは間違いない。やっと43名揃った。この43人で走り続ける。
熊澤組の前に立ちはだかる敵はすべて倒す。俺たちは早稲田。早稲田のジャージを背負って負けられない。
次の対戦相手は四条畷高校。負けたら終わりというのはお互い一緒であり気持ちも同じ。3年生の意地に期待したい。
保護者の皆様、OBの皆様、先生方、応援ありがとうございました。
次戦は10月28日。四条畷高校と摂津高校グランドにて14時10分キックオフです。
藤森コーチ
前半も後半もミスが多く、数名のゲームブレイカ―によって流れを持ってくることができない時間が多かった。ミスをする選手の中には自分の力を過信し、指導や説明を真摯に受け止めていない。あえてここで苦言を呈しておく。一つのミスで試合に負けるのがこの大会の厳しさである。責任感がない、チームとして動けないのであれば出場させない。軽いプレーは許されない。自分たちの胸についているエンブレムに手を当てて聞いてみてほしい。自分は責任を果たしたのかと。
次は四条畷高校。力は一緒ぐらいだと思うのでミスをした方が負けると思っている。試合も偵察に来ていたし、サインプレーとかではなく純粋にどちらが強いかで勝負が決まると思います。3年生の意地に期待したいと思います。
そして、ついにその1ピースを見つけパズルを完成させた。
完成することがなかった熊澤組の絵。ぽっかりと空いた場所は、心に穴が開いたような感覚であり、他の誰かが埋めることができないものであった。
そう、彼以外の誰にも・・・・
常に雲がかかったような空が、この試合前に雲一つない晴れ渡った秋空に変化したのだ。
長かった、苦しかった、だけれども、僕らは彼を一瞬たりとも忘れていなかった。言葉には出さなかったが、彼が復帰するまで勝ち続ける。そしてもう一度一緒に試合をすることを望んでいた。
中村和由、電撃復帰!!!!!
(写真提供・北川さん)
復帰は突然だった。
彼の姿をグランドで見た2,3年生は復帰への言葉に目頭を熱くし、人目をはばからず涙した。
『3年、中村和由です。股関節のけがをして、ずっとグランドに来ていませんでしたが、明日はみんなと試合がしたいのでよろしくお願いします』
大の男が見せる大粒の涙に心を打たれない者はいなかった。多くを語らなくても、この短いセリフにグッと込み上げてくる熱い感情、心臓の鼓動が一気に早くなる感覚。それもそのはずだ。2年間同じ時間を過ごした絆は切っても切れない関係である。
3年生の顔を見ると、いろんな意味で危なかった。普通の感情ではいられなかったのが事実である。この瞬間、次の試合に向けての『覚悟』と『決意』ができた。
(写真提供・大阪早稲田倶楽部)
試合の内容に入る前に、ここで中村和由という男の話に触れていきたい。本来ならば、このような場で個人を紹介するのは、HPの趣旨に反するが今日だけは許していただきたい。
彼は2年生からWTBのレギュラーであり、チームのムードメーカであった。愛嬌のある笑顔と人懐っこい性格で彼の周りにはいつもたくさんの部員が集まっていた。しかし、1月に股関節に異常が見つかり、医者から一切の運動を禁止され、復帰時期は未定と言われた。悩んで末に彼は休部した。チームの行動から離れた和由との交流は減り、春の大会、夏合宿は終わり、そして予選開幕となった。
和由は1回戦の応援も自分が行っていいのか悩んでいた。そんな彼を監督はグランドに応援に来るように話した。照れ屋で遠慮深い人間、パンフレットの集合写真も自分は練習に参加していないから写ることはできないと言ってきた男。2回戦には応援に来ると聞いたので試合に出場させることを監督に相談した。
実は彼が怪我した時に、どんなに優秀な選手が入ってきてギリギリで復帰したとしても、最後の大会で使うという約束をしていたのだ。彼がその約束を覚えているか定かではないが、彼の復帰を待ち望んでいたのは選手だけでなく、スタッフも同じ気持ちなのである。もちろん、彼がリザーブに入るということは、誰かの出場機会を奪うことになる。それ以上に、彼がチームに帯同し試合に出場することがチームを前進させると思い、全部員の前で彼をリザーブとして入れることを宣言した。
彼がこの一戦に復帰することを聞いた部員の心は、自分のためではなく、誰かの為に何かをする、ラグビーをするということを初めて学んだに違いない。人の想いを背負うことができるのがスポーツ最大の魅力であり、誰かの為に勇気を出して身体を張れるスポーツはラグビーだけなのである。
人を大きくする瞬間である。このような熱い集団と一緒に戦えることを光栄に思う。
(写真提供・大阪早稲田倶楽部)
決意表明で3年生の口から出る『和由』というセリフ。
『これで3年生全員が揃った。和由の為に全力を尽くします』
『和由が出場できるように全身全霊を懸けて試合してきます』
その言葉に和由は涙した。
コーチから
『出たくても出られない選手がいるということを初めてわかったと思う。ラグビーをしたくてもできない選手がいるということをわかったと思う。グランドで早稲田の代表として戦えることの喜びと幸せを噛みしめてほしい。タックルを怖がっているのは恥ずかしいことだ。タックルしたくても怪我でできない人がいる。身体を張りたくても、グランドに立つことすら許されない人間がいる。そう考えれば、逃げずにタックルできると思う。それぞれの責任を果たそう。誰かの為に身体を張り、誰かの為にタックルする。その想いが早稲田を支え、早稲田の伝統と文化の一つになる。明日は勝とう。』
決意表明が終わり、試合への準備は整った。
12時20分 キックオフ @堺東高校
対戦相手は合同チーム。しかし、侮ってはいけない。1戦目の点数を見る限りかなり手強い。そして、ここは大阪という地。合同チームであろうと経験者多数であり、うちのような素人軍団が油断できる相手ではない。
キックオフ直後からボールを支配するが、ゴール前に行ってもミスでチャンスを潰してしまう。勤勉、思い切りの良いDFに攻撃はギリギリで寸断され、前半の15分を過ぎても膠着状態が続く。それを打ち破ったのは3年生WTB村井。まじめ、謙虚、寡黙と3拍子揃った男が、この停滞した雰囲気を打ち破るトライ。そして、立て続けにトライをアシストとチームを引っ張った。この試合のマン・オブ・ザ・マッチ!前半を終わって12-0.次の点数がどちらに転ぶかで試合は違った様相になる。後半が始まる前に必ず先に点数をとるように指示した。メンバーを変えられるほどの試合展開ではなかったため、メンバーは変更しなかった。リードされる展開はどのチームでも苦しい精神状態に陥る。
(写真提供・大阪早稲田倶楽部)
後半キックオフ。
後半はモールから小池のトライ、そして前回の試合のMVP・上原のトライで相手を引き離して、ついにこの瞬間を迎える。
背番号25番がピッチサイドで交代の準備をすると、どこからともなく聞こえてくる『和由』コール。力強く握手した手、彼の後姿から3年間の苦しみや想いが伝わってきた。
時間は5分。それがチームとしての最大限の配慮。ファーストプレーを難なくこなすと、パス、ラン、スイープとプレーに参加した。トライこそなかったが、彼がグランドでプレーする姿を3年生は熱い眼差しで見つめていたに違いない。どのような感情が3年生の中に生まれたのかはわからない。しかし、彼らは和由の復帰を歓迎し、試合に出場させるために全力を尽くした。仲間の大切さ、一生付き合っていくであろう仲間として、彼らの中で一つの大きな出来事として刻まれたことは間違いない。やっと43名揃った。この43人で走り続ける。
熊澤組の前に立ちはだかる敵はすべて倒す。俺たちは早稲田。早稲田のジャージを背負って負けられない。
次の対戦相手は四条畷高校。負けたら終わりというのはお互い一緒であり気持ちも同じ。3年生の意地に期待したい。
保護者の皆様、OBの皆様、先生方、応援ありがとうございました。
次戦は10月28日。四条畷高校と摂津高校グランドにて14時10分キックオフです。
藤森コーチ
前半も後半もミスが多く、数名のゲームブレイカ―によって流れを持ってくることができない時間が多かった。ミスをする選手の中には自分の力を過信し、指導や説明を真摯に受け止めていない。あえてここで苦言を呈しておく。一つのミスで試合に負けるのがこの大会の厳しさである。責任感がない、チームとして動けないのであれば出場させない。軽いプレーは許されない。自分たちの胸についているエンブレムに手を当てて聞いてみてほしい。自分は責任を果たしたのかと。
次は四条畷高校。力は一緒ぐらいだと思うのでミスをした方が負けると思っている。試合も偵察に来ていたし、サインプレーとかではなく純粋にどちらが強いかで勝負が決まると思います。3年生の意地に期待したいと思います。
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