VS関大北陽「初の決勝進出!聖地・花園へラスト1分で勝ち越しPG。荒ぶるへの最終章」
2016/11/07
ノーサイドの笛が鳴り響いた時の光景がこの試合に懸ける想いの強さを表していた。誰もが泣いた。抱きあった。それだけ本気で求めてきた。あの日見た景色はこれからも忘れることはないだろう。人生で初めて本気で努力してきたことが肯定された日。それも仲間とともに・・・・・・・
11月6日、早稲田摂陵高校ラグビー部にとって忘れられない1日となった。
新たな歴史の扉をこじ開けたのだ。それは寝付けないほどの興奮であった。
男として人生を懸けた60分間の戦い。
素人6割、経験者4割の公立高校と同等の戦力かそれ以下。準決勝に高校からラグビーを始めた選手が6人先発出場しても、決勝進出という夢を3年間諦めなかった選手たちが挑んだ舞台。その結末は本当にドラマチックであった。
時計の針は後半29分を示していた。得点は14−14。このままタイムアップを迎えれば抽選にて決勝進出を決めることになるが、試合に出場している赤黒戦士たちは誰もそれを良しとしていなかった。
「関大北陽と白黒つけたい。最後まで攻め続ける。そして自分たちの手で歴史を切り開く」
しんどい時間にも関わらず走れた。それは無意識の中にある反応と決意の表れ。
走りたくても・・・・・・戦いたくても・・・・・・それができないやつがチームメイトにはいる。俺たちのタックルは松永のタックルであり、ベンチにいる3年生の意地であり、俺たちのパスはマネージャーの三部と丸山の想いであり、ラスト1分の想いは今まで赤黒ジャージの誇りを守り、袖を通してきたOBたちへの感謝であり、日々サポートしてくれる保護者であり、その状況を考えれば痛みや疲れなど感じている場合ではなかった。
アップTシャツのの背中に書かれている
「一つのボールに魂を込めろ。その血の通ったボールが15人を繋いでゆく」
を体現するために・・・・・・
意を決したように自陣から連続で攻め続け、敵陣ゴール手前10mでレフリーの左手が挙がる。
思い返せば、5月のBシード決定戦。対戦相手は今日と同じ関大北陽だった。この平田組の歴史を語る上で重要な相手はいつも関大北陽だった。
あの5月の時と展開は同じだった。ラスト1分、早稲田摂陵が攻め、関大北陽が守る構図。そのときは全員で繋いだボールがゴール手前1mで阻まれ早稲田摂陵の反則となり、2点差でBシードを逃した。大きな敗北だった。
BシードとCシードでは決勝に進出できる確率は大きく異なる。現にここ最近5年間でCシードがBシードを破って決勝に進出したチームは大阪の予選ではいない。それほどまでに決勝進出というのは大きな壁になるのである。
その大事な試合に我々は負け、絶望の淵まで追い込まれた。
誰もが諦めかけていた。それでもこのチームの可能性を信じてやまない男がいた。
主将の平田である。
抽選会で関大北陽高校の横に座り再戦を望んだ。そして監督も勝尾寺に行き、その報告を待った。右手で引いた抽選番号に書かれていたのは関大北陽と同じ山だった。奇跡だった。6分の1を引いたのだから。これは運命だなと思った。
グランドで抽選結果を固唾を飲んで待っていた選手に関大北陽と同じ山に入ったとの知らせが入った時、その報告を部員全員が噛み締めた。覚悟は決まった。その日から全ては関大北陽に勝つために。
本当にしんどい6ヶ月間だった。
「関大北陽が我々より厳しい練習をしていたらどうする」
「今日という1日で負けるかもしれない」
「その意識では勝てない」
「それはお前らの限界か」
見えない敵との戦いであった。実際に試合をして、関大北陽の強さを知っていた部員たちもこの6ヶ月間で関大北陽がどれほど成長し、進化しているかを測ることはできない。そして、我々が追いついているのかどうかも、11月6日のグランドでの結果しかわからない。
だからこそ、毎日が自分たちとの戦いであった。
夏合宿では東京高校と互角の勝負、大分舞鶴には勝った。
早稲田大学との合同練習ではラグビーの厳しさと自分たちの甘さを知った。道標も教えていただき、兄貴分の大学から本物の早稲田を学んだ。
そんな経験から少しずつ手応えを感じていたことも事実。
それでも不安は拭いきれなかった。
相手は関大北陽なのである。
大阪でもトップ3を誇る部員数と大学並みの施設を完備し、経験者も豊富で有名な選手も複数いる。大阪代表候補として国体予選に選ばれた選手も在籍し、前年度は決勝に出ている関大北陽は我々にとって巨大な壁である。これまで公式戦で一度も勝てていない相手。
対照的な我々は毎年4月、部員集めから始まる。やっとの思いで15人を集めるのが精一杯。そんなラグビーを知らない選手たちのボールより前に行く姿は春の風物詩。コーチにとってはとてもやり甲斐のある選手たちだ。それだからこそ3年間の伸びは他のチームよりある。
何も描かれていないキャンバスに絵を描くのは難しいことでもあるが、純粋にそれが正しいと信じることができるのが強みである。
早稲田ラグビーを学ぶ3年間。
運命で結ばれたこの2校は、1年生試合の初めての対戦相手でもあった。
ラグビーデビューした素人軍団たちは右も左もわからず試合に出場したが、平田の活躍によって勝利を収めた。
最初は興味本位で入部したラグビーというスポーツに次第に惹かれていった。それと同時にラグビーの厳しさとしんどさを思い知らされた。それでも辞めようと思わなかったのはやっぱり・・・・・・・・・・・最高の仲間が隣にいたから。
先週の結果から、そんな両者が負けたら引退という最後の大会で三度対戦することとなり、入学してからの950日の筋書きないドラマが繰り広げられる、この60分間。理屈ではない勝負に観ているものがワクワクしたに違いない。
早稲田摂陵か関大北陽か。どちらかのチームに終止符が打たれる試合。
迎えた前日の決意表明。普段とは異なり、保護者と応援してくれる生徒に向かって述べた決意表明。涙ながらに関大北陽戦への決意を述べる3年生に観ている観客もグッとくるものがあった。
「3年間一緒に過ごしてきた仲間と試合に出場できることに感謝し、関大北陽を倒して早稲田摂陵の歴史を変えたいと思います」
「引退していった先輩たちの為にも明日は勝って自分たちの夢を叶えたいと思います」
「3年間追い続けてきた夢を、最高の仲間と最高の舞台で戦うという夢を、応援してくれる人々を最高の舞台に連れて行くという夢を、藤森啓介を男にするという夢を叶える為に全力を尽くしていきます」
「家族以上に同じ時間を過ごしたこの仲間と絶対に勝ちたいと思います」
「平田組の3年間の生き様を証明する為に」
「3年間この仲間とやってきた努力を肯定する為に、3年生としての意地を見せ、一人の男として、早稲田のラガーマンとして身体を張り続けたいと思います」
一人の男として人生を懸けて戦うことができるのは本当に幸せなことである。何かを守り、何かを背負うことができる人生はなかなかない。一人の男としての幸せを感じたのではないだろうか。託されるというのは信頼があってこそ。託す側から信頼を得なければ早稲田の赤黒ジャージは背負えない。
最後に主将・平田が決意を述べた。
「これまで厳しいことを言われ続けた、苦しい練習を乗り越えてきた3年間。早稲田とは何かを問われ続けた3年間。そして、この最高の仲間たちと出会わせてくれた3年間、最高の夢を肯定する為に明日は関大北陽を倒します」
そうして試合前練習は始まった。しかし、緊張からかミスがたくさんあった。浮足立っているところでコーチが話をしようとしたとき、主将の平田がチームをまとめ話をした。
もうコーチから言われなくても自立した集団になったなと確信した。
ミーティングでジャージを渡し、モチベーションビデオで気持ちは固まった。でも、もう一段階チームを一つにしたかった。そんなとき、やはり大事なのは同期の存在と託す側だろうと考えた。そこで、選手には秘密でマネージャーにモチベーションビデオを依頼していた。そんなサプライズに選手たちは映像を食い入るように見つめた。
託す側と託される側の気持ちが一つになった瞬間だった。明日は全力を出し切れる。
当日は最高のアップだった。コーチも3年生もこの60分間だけにすべてを懸けた。
何度も円陣を組み、one teamで勝つことを目指した。
12時30分 運命のキックオフ
キックオフ直後から両者とも一歩も譲らない。関大北陽の15番に早稲田摂陵の15番・前原が強烈なタックルをする。しかし、相手もそのボールをつなぎ一進一退の攻防。互いに踏み込むタックルで相手の良さを消した。ゴール前に迫っても集中力が切れず、スコアするにはいたらなかった。そんな中、最初にチャンスを掴んだのは早稲田摂陵。
前半22分 ゴール前で掴んだラインアウトからFWがこだわり、最後は115kgのPR・高倉がゴール中央に飛び込み先制トライ!ゴールも決まり7−0
その後はお互いのスキルと、戦術がぶつかり合い、そして何よりもこのゲームに対する気持ちがぶつかり合ってゲームは動かず、早稲田摂陵7−0のリードでハーフタイムを迎える。
ハーフタイムでは多くの選手から修正点が飛び交う。
この試合に至るまでに念入りにプランニングしてきた。この試合は間違いなく接戦になる。24点がこの試合を決めると話してきた。それ以上の失点をすれば我々に勝ち目はなくなる。1点を争うゲームになるのでスコアをして帰ってくること。中央にトライしに行きトライ後のゴールを確実にあげること。
そして、先制点が最も大切。心理的に優位を保つ為に大切なこと。これまでの対戦で最も異なるのは早稲田摂陵がリードしてハーフタイムを迎えたことだ。これは我々の選手に勇気を与えた。
そしてコーチから
「人生のたった30分。これまでがんばってきたのは何の為か。誰の為に戦っているのか。すべてを出し切って勝ってこい」と送りだされ
運命の30分がスタートした。
後半も序盤はゲームが動かない。それでも後半最初にスコアしたのは早稲田摂陵だった。
後半14分 キックチェイスからHO冨田がタックルして相手が落としたボールを素早く拾い上げゴール中央にLO・辰見がトライ。キックも決まり14-0.
このトライは大きかった。7−7になるのか、14−0になるのかは大きな違いであった。
時間と点差から考え、もう1回早稲田摂陵がスコアすれば勝負は決まる。
しかし、ここから一気に関大北陽ペースになる。
攻め急いだところを
後半16分 北陽14番にインターセプトされ14−7
その後もじりじりと敵陣に侵入し、確実なプレーでゴール前に迫ってくる。
その予感は的中し
後半26分 ラインアウトモールからFWサイドを突かれ、関大北陽SHがトライ。 14-14。
簡単には勝たせてくれないのが関大北陽。最高のライバルとの試合は残り4分で振出しに戻り、試合の流れは関大北陽に。
キックオフから連続攻撃で攻められるとペナルティーを犯し、ハーフラインまで戻される。しかし、関大北陽の連続攻撃をタックルで止めるとターンオーバー。1年間練習してきたトランジショントレーニングの成果で敵陣22mまで大きくゲインし、連続攻撃開始。ひたすら順目に攻撃し、左から右まで展開。
後半29分にして順目に走ったのは出られない選手の思い、今まで応援しサポートしてくださった保護者、そして毎日切磋琢磨した学校の友達の声援に応えたかったからだ。どんなに痛くても、戦いたくても、それができない選手がいることを胸に刻んでいた。試合に出られない3年の松永の声が木霊す。身体が反応する。俺たちの身体は松永の分も、マネージャーの三部の分、丸山の分、そしてこの赤黒ジャージを着て、早稲田の誇りと伝統を守ろうとしてきた先輩方の分であった。赤黒戦士たちが関大北陽のDFラインを突破していく。主将の平田が抜け出しゴール前10mまで迫った、そのブレイクダウンに3年の田崎が素早く寄ってスイープした。そのボールをSHの前川が間髪入れず捌く。そして、その早稲田摂陵の命運をかけたボールが高木にわたる。
思い返せばあの5月に敗北した日、最後にボールを持っていたのも高木であった。あの日の雪辱と届かなかった1mを取り戻すべく、前に進んでいった。これは運命だなと思った。そうして進んでいったブレイクダウン後に、レフリーの笛が鳴った。ペナルティー。
どちらに手が挙がるかで勝敗は決まる。一瞬の静寂があった後、手が挙がったのは早稲田摂陵のほうだった。
高木は鉄笛にこう記していた。(*鉄笛とは早稲田大学ラグビー部に伝わる伝統の一つ。文集)
最後の北陽戦へ。「今、お前は必死か?俺を含め全員が自分に、仲間に問いかけてほしい。グランドで死んでもよい、その覚悟こそが早稲田における必死であると俺は思う」
その必死が体現された瞬間だった。
最後の最後で回ってきたペナルティーのチャンス。迷わずPGを選択した。
キッカーは2年生の人見。
11番・人見が全部員の想い、これまでのOBの想い、勝利を願っている人すべての想いを背負いボールをセットした。ゴールほぼ正面のキック。絶対に入ると信じていた。
泥だらけになり、必死になり、走り回った3年間。早稲田ラグビーはタックルと言われ続けた3年間。入らないわけがないと信じた。
人見が蹴ったボールは美しい放物線を描き、Hポールの真ん中を通過した。
そして、ノーサイドの笛が青空に響き渡った。
息詰まる攻防を制したのは早稲田摂陵だった。それも3点差で。勝負はもう一度あればわからない。ほんの少しだけ早稲田摂陵に運があった。その運を掴むだけの努力をしてきたことを楕円球の神様は見ていてくれたのかもしれない。
出られない選手と託す側への約束は守った。月曜日もこのメンバーでまた練習ができる。
勝利以上に仲間との大切な時間を守ることができたのだ。
試合後に観客席を見た選手たちは何を想い、何を感じただろうか。
選手と同じように涙している多数の観客を見て、この熱戦がどれほど人の心を動かしたか。
それは3年間ライバル関係にあった関大北陽高校がいたから。関大北陽という存在がいなければ我々はここまで努力することはなく、苦悩することもなかった。勝負は紙一重。そんな最高のライバルである彼らの分を戦うことへの責任を背負うことになった。また一つ、君たちの背中には背負うべきものができた。
ついに平田組が掴んだ夢の花園第一グランド!素人と経験者の融合で目指した3年間の血の滲むような努力は無駄ではなかった。人生の中で初めて本気でチャレンジした物事。その努力が肯定されたことで勝ち以上に一人の人間として大きなものを掴んだに違いない。
3年前誓った一つの目標を達成した。
しかし、我々にはまだ成し遂げていない目標がある。
「荒ぶる」
早稲田ラグビーの名を背負うものに課せられた使命。優勝した時のみ歌うことが許される第二部歌・荒ぶる。
その目的を達成するためには決勝戦の相手である常翔学園を倒さなければならない。荒ぶるへの最終章。
最高の舞台で最高の仲間と最高の夢を!
応援に来てくださった皆様
本当に応援ありがとうございました!苦しい時にみなさんの声援が力になりました。次の花園第一グランドでもたくさんの応援宜しくお願いいたします。
11月6日、早稲田摂陵高校ラグビー部にとって忘れられない1日となった。
新たな歴史の扉をこじ開けたのだ。それは寝付けないほどの興奮であった。
男として人生を懸けた60分間の戦い。
素人6割、経験者4割の公立高校と同等の戦力かそれ以下。準決勝に高校からラグビーを始めた選手が6人先発出場しても、決勝進出という夢を3年間諦めなかった選手たちが挑んだ舞台。その結末は本当にドラマチックであった。
時計の針は後半29分を示していた。得点は14−14。このままタイムアップを迎えれば抽選にて決勝進出を決めることになるが、試合に出場している赤黒戦士たちは誰もそれを良しとしていなかった。
「関大北陽と白黒つけたい。最後まで攻め続ける。そして自分たちの手で歴史を切り開く」
しんどい時間にも関わらず走れた。それは無意識の中にある反応と決意の表れ。
走りたくても・・・・・・戦いたくても・・・・・・それができないやつがチームメイトにはいる。俺たちのタックルは松永のタックルであり、ベンチにいる3年生の意地であり、俺たちのパスはマネージャーの三部と丸山の想いであり、ラスト1分の想いは今まで赤黒ジャージの誇りを守り、袖を通してきたOBたちへの感謝であり、日々サポートしてくれる保護者であり、その状況を考えれば痛みや疲れなど感じている場合ではなかった。
アップTシャツのの背中に書かれている
「一つのボールに魂を込めろ。その血の通ったボールが15人を繋いでゆく」
を体現するために・・・・・・
意を決したように自陣から連続で攻め続け、敵陣ゴール手前10mでレフリーの左手が挙がる。
思い返せば、5月のBシード決定戦。対戦相手は今日と同じ関大北陽だった。この平田組の歴史を語る上で重要な相手はいつも関大北陽だった。
あの5月の時と展開は同じだった。ラスト1分、早稲田摂陵が攻め、関大北陽が守る構図。そのときは全員で繋いだボールがゴール手前1mで阻まれ早稲田摂陵の反則となり、2点差でBシードを逃した。大きな敗北だった。
BシードとCシードでは決勝に進出できる確率は大きく異なる。現にここ最近5年間でCシードがBシードを破って決勝に進出したチームは大阪の予選ではいない。それほどまでに決勝進出というのは大きな壁になるのである。
その大事な試合に我々は負け、絶望の淵まで追い込まれた。
誰もが諦めかけていた。それでもこのチームの可能性を信じてやまない男がいた。
主将の平田である。
抽選会で関大北陽高校の横に座り再戦を望んだ。そして監督も勝尾寺に行き、その報告を待った。右手で引いた抽選番号に書かれていたのは関大北陽と同じ山だった。奇跡だった。6分の1を引いたのだから。これは運命だなと思った。
グランドで抽選結果を固唾を飲んで待っていた選手に関大北陽と同じ山に入ったとの知らせが入った時、その報告を部員全員が噛み締めた。覚悟は決まった。その日から全ては関大北陽に勝つために。
本当にしんどい6ヶ月間だった。
「関大北陽が我々より厳しい練習をしていたらどうする」
「今日という1日で負けるかもしれない」
「その意識では勝てない」
「それはお前らの限界か」
見えない敵との戦いであった。実際に試合をして、関大北陽の強さを知っていた部員たちもこの6ヶ月間で関大北陽がどれほど成長し、進化しているかを測ることはできない。そして、我々が追いついているのかどうかも、11月6日のグランドでの結果しかわからない。
だからこそ、毎日が自分たちとの戦いであった。
夏合宿では東京高校と互角の勝負、大分舞鶴には勝った。
早稲田大学との合同練習ではラグビーの厳しさと自分たちの甘さを知った。道標も教えていただき、兄貴分の大学から本物の早稲田を学んだ。
そんな経験から少しずつ手応えを感じていたことも事実。
それでも不安は拭いきれなかった。
相手は関大北陽なのである。
大阪でもトップ3を誇る部員数と大学並みの施設を完備し、経験者も豊富で有名な選手も複数いる。大阪代表候補として国体予選に選ばれた選手も在籍し、前年度は決勝に出ている関大北陽は我々にとって巨大な壁である。これまで公式戦で一度も勝てていない相手。
対照的な我々は毎年4月、部員集めから始まる。やっとの思いで15人を集めるのが精一杯。そんなラグビーを知らない選手たちのボールより前に行く姿は春の風物詩。コーチにとってはとてもやり甲斐のある選手たちだ。それだからこそ3年間の伸びは他のチームよりある。
何も描かれていないキャンバスに絵を描くのは難しいことでもあるが、純粋にそれが正しいと信じることができるのが強みである。
早稲田ラグビーを学ぶ3年間。
運命で結ばれたこの2校は、1年生試合の初めての対戦相手でもあった。
ラグビーデビューした素人軍団たちは右も左もわからず試合に出場したが、平田の活躍によって勝利を収めた。
最初は興味本位で入部したラグビーというスポーツに次第に惹かれていった。それと同時にラグビーの厳しさとしんどさを思い知らされた。それでも辞めようと思わなかったのはやっぱり・・・・・・・・・・・最高の仲間が隣にいたから。
先週の結果から、そんな両者が負けたら引退という最後の大会で三度対戦することとなり、入学してからの950日の筋書きないドラマが繰り広げられる、この60分間。理屈ではない勝負に観ているものがワクワクしたに違いない。
早稲田摂陵か関大北陽か。どちらかのチームに終止符が打たれる試合。
迎えた前日の決意表明。普段とは異なり、保護者と応援してくれる生徒に向かって述べた決意表明。涙ながらに関大北陽戦への決意を述べる3年生に観ている観客もグッとくるものがあった。
「3年間一緒に過ごしてきた仲間と試合に出場できることに感謝し、関大北陽を倒して早稲田摂陵の歴史を変えたいと思います」
「引退していった先輩たちの為にも明日は勝って自分たちの夢を叶えたいと思います」
「3年間追い続けてきた夢を、最高の仲間と最高の舞台で戦うという夢を、応援してくれる人々を最高の舞台に連れて行くという夢を、藤森啓介を男にするという夢を叶える為に全力を尽くしていきます」
「家族以上に同じ時間を過ごしたこの仲間と絶対に勝ちたいと思います」
「平田組の3年間の生き様を証明する為に」
「3年間この仲間とやってきた努力を肯定する為に、3年生としての意地を見せ、一人の男として、早稲田のラガーマンとして身体を張り続けたいと思います」
一人の男として人生を懸けて戦うことができるのは本当に幸せなことである。何かを守り、何かを背負うことができる人生はなかなかない。一人の男としての幸せを感じたのではないだろうか。託されるというのは信頼があってこそ。託す側から信頼を得なければ早稲田の赤黒ジャージは背負えない。
最後に主将・平田が決意を述べた。
「これまで厳しいことを言われ続けた、苦しい練習を乗り越えてきた3年間。早稲田とは何かを問われ続けた3年間。そして、この最高の仲間たちと出会わせてくれた3年間、最高の夢を肯定する為に明日は関大北陽を倒します」
そうして試合前練習は始まった。しかし、緊張からかミスがたくさんあった。浮足立っているところでコーチが話をしようとしたとき、主将の平田がチームをまとめ話をした。
もうコーチから言われなくても自立した集団になったなと確信した。
ミーティングでジャージを渡し、モチベーションビデオで気持ちは固まった。でも、もう一段階チームを一つにしたかった。そんなとき、やはり大事なのは同期の存在と託す側だろうと考えた。そこで、選手には秘密でマネージャーにモチベーションビデオを依頼していた。そんなサプライズに選手たちは映像を食い入るように見つめた。
託す側と託される側の気持ちが一つになった瞬間だった。明日は全力を出し切れる。
当日は最高のアップだった。コーチも3年生もこの60分間だけにすべてを懸けた。
何度も円陣を組み、one teamで勝つことを目指した。
12時30分 運命のキックオフ
キックオフ直後から両者とも一歩も譲らない。関大北陽の15番に早稲田摂陵の15番・前原が強烈なタックルをする。しかし、相手もそのボールをつなぎ一進一退の攻防。互いに踏み込むタックルで相手の良さを消した。ゴール前に迫っても集中力が切れず、スコアするにはいたらなかった。そんな中、最初にチャンスを掴んだのは早稲田摂陵。
前半22分 ゴール前で掴んだラインアウトからFWがこだわり、最後は115kgのPR・高倉がゴール中央に飛び込み先制トライ!ゴールも決まり7−0
その後はお互いのスキルと、戦術がぶつかり合い、そして何よりもこのゲームに対する気持ちがぶつかり合ってゲームは動かず、早稲田摂陵7−0のリードでハーフタイムを迎える。
ハーフタイムでは多くの選手から修正点が飛び交う。
この試合に至るまでに念入りにプランニングしてきた。この試合は間違いなく接戦になる。24点がこの試合を決めると話してきた。それ以上の失点をすれば我々に勝ち目はなくなる。1点を争うゲームになるのでスコアをして帰ってくること。中央にトライしに行きトライ後のゴールを確実にあげること。
そして、先制点が最も大切。心理的に優位を保つ為に大切なこと。これまでの対戦で最も異なるのは早稲田摂陵がリードしてハーフタイムを迎えたことだ。これは我々の選手に勇気を与えた。
そしてコーチから
「人生のたった30分。これまでがんばってきたのは何の為か。誰の為に戦っているのか。すべてを出し切って勝ってこい」と送りだされ
運命の30分がスタートした。
後半も序盤はゲームが動かない。それでも後半最初にスコアしたのは早稲田摂陵だった。
後半14分 キックチェイスからHO冨田がタックルして相手が落としたボールを素早く拾い上げゴール中央にLO・辰見がトライ。キックも決まり14-0.
このトライは大きかった。7−7になるのか、14−0になるのかは大きな違いであった。
時間と点差から考え、もう1回早稲田摂陵がスコアすれば勝負は決まる。
しかし、ここから一気に関大北陽ペースになる。
攻め急いだところを
後半16分 北陽14番にインターセプトされ14−7
その後もじりじりと敵陣に侵入し、確実なプレーでゴール前に迫ってくる。
その予感は的中し
後半26分 ラインアウトモールからFWサイドを突かれ、関大北陽SHがトライ。 14-14。
簡単には勝たせてくれないのが関大北陽。最高のライバルとの試合は残り4分で振出しに戻り、試合の流れは関大北陽に。
キックオフから連続攻撃で攻められるとペナルティーを犯し、ハーフラインまで戻される。しかし、関大北陽の連続攻撃をタックルで止めるとターンオーバー。1年間練習してきたトランジショントレーニングの成果で敵陣22mまで大きくゲインし、連続攻撃開始。ひたすら順目に攻撃し、左から右まで展開。
後半29分にして順目に走ったのは出られない選手の思い、今まで応援しサポートしてくださった保護者、そして毎日切磋琢磨した学校の友達の声援に応えたかったからだ。どんなに痛くても、戦いたくても、それができない選手がいることを胸に刻んでいた。試合に出られない3年の松永の声が木霊す。身体が反応する。俺たちの身体は松永の分も、マネージャーの三部の分、丸山の分、そしてこの赤黒ジャージを着て、早稲田の誇りと伝統を守ろうとしてきた先輩方の分であった。赤黒戦士たちが関大北陽のDFラインを突破していく。主将の平田が抜け出しゴール前10mまで迫った、そのブレイクダウンに3年の田崎が素早く寄ってスイープした。そのボールをSHの前川が間髪入れず捌く。そして、その早稲田摂陵の命運をかけたボールが高木にわたる。
思い返せばあの5月に敗北した日、最後にボールを持っていたのも高木であった。あの日の雪辱と届かなかった1mを取り戻すべく、前に進んでいった。これは運命だなと思った。そうして進んでいったブレイクダウン後に、レフリーの笛が鳴った。ペナルティー。
どちらに手が挙がるかで勝敗は決まる。一瞬の静寂があった後、手が挙がったのは早稲田摂陵のほうだった。
高木は鉄笛にこう記していた。(*鉄笛とは早稲田大学ラグビー部に伝わる伝統の一つ。文集)
最後の北陽戦へ。「今、お前は必死か?俺を含め全員が自分に、仲間に問いかけてほしい。グランドで死んでもよい、その覚悟こそが早稲田における必死であると俺は思う」
その必死が体現された瞬間だった。
最後の最後で回ってきたペナルティーのチャンス。迷わずPGを選択した。
キッカーは2年生の人見。
11番・人見が全部員の想い、これまでのOBの想い、勝利を願っている人すべての想いを背負いボールをセットした。ゴールほぼ正面のキック。絶対に入ると信じていた。
泥だらけになり、必死になり、走り回った3年間。早稲田ラグビーはタックルと言われ続けた3年間。入らないわけがないと信じた。
人見が蹴ったボールは美しい放物線を描き、Hポールの真ん中を通過した。
そして、ノーサイドの笛が青空に響き渡った。
息詰まる攻防を制したのは早稲田摂陵だった。それも3点差で。勝負はもう一度あればわからない。ほんの少しだけ早稲田摂陵に運があった。その運を掴むだけの努力をしてきたことを楕円球の神様は見ていてくれたのかもしれない。
出られない選手と託す側への約束は守った。月曜日もこのメンバーでまた練習ができる。
勝利以上に仲間との大切な時間を守ることができたのだ。
試合後に観客席を見た選手たちは何を想い、何を感じただろうか。
選手と同じように涙している多数の観客を見て、この熱戦がどれほど人の心を動かしたか。
それは3年間ライバル関係にあった関大北陽高校がいたから。関大北陽という存在がいなければ我々はここまで努力することはなく、苦悩することもなかった。勝負は紙一重。そんな最高のライバルである彼らの分を戦うことへの責任を背負うことになった。また一つ、君たちの背中には背負うべきものができた。
ついに平田組が掴んだ夢の花園第一グランド!素人と経験者の融合で目指した3年間の血の滲むような努力は無駄ではなかった。人生の中で初めて本気でチャレンジした物事。その努力が肯定されたことで勝ち以上に一人の人間として大きなものを掴んだに違いない。
3年前誓った一つの目標を達成した。
しかし、我々にはまだ成し遂げていない目標がある。
「荒ぶる」
早稲田ラグビーの名を背負うものに課せられた使命。優勝した時のみ歌うことが許される第二部歌・荒ぶる。
その目的を達成するためには決勝戦の相手である常翔学園を倒さなければならない。荒ぶるへの最終章。
最高の舞台で最高の仲間と最高の夢を!
応援に来てくださった皆様
本当に応援ありがとうございました!苦しい時にみなさんの声援が力になりました。次の花園第一グランドでもたくさんの応援宜しくお願いいたします。
« 準々決勝 VS布施工科【最高の仲間と挑む荒ぶるへの一歩】 | VS常翔学園「素人軍団が聖地・花園で3年間を懸けた戦い。荒ぶるへの夢の60分」 »