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VS東海大仰星 「準優勝。素人6割のチームが日本一のチームに真っ向勝負で挑んだ60分間」

2016/02/10

2月7日 決勝

対戦相手は説明する必要がないぐらいラグビー界での超名門校。誰もが憧れ、プレーしたいと思う素晴らしいチーム。クリーンで速いラグビーは、観る者を魅了する。選手だけでなく指導者も勉強になることがたくさんある。東海大仰星高校は昨年度3冠と名実ともに日本一であることは周知の事実。

先週のノーサイドの笛が鳴った時から、この試合の戦いは始まった。日本一のチームへの尊敬と共に恐怖を感じる1週間。そんな中で自分たちがどれだけの準備をできるのかが大切であった。

1週間というのは少々語弊がある。サニックスワールドラグビーユース交流大会が終わってからの1か月間、反省練習と新たな取り組みをこの試合の為にしてきた。目指すべき指標と反省点を教えてくれたサニックス大会。本当にありがたかった。

1か月ではないか・・・・・入学してからの1年10か月。
歴代の先輩方も含めれば、何十年との想いをすべての準備に込めて。
このような頂上決戦の舞台で戦うことができるチームに育てていく。
今年のチームスローガン「Championship mind」がまさに試される舞台である。

決勝でそれぞれが姿勢、態度、行動、発言がチャンピオンにふさわしくなるために掲げたスローガン。



ラグビー経験なし、肩書なし、多少の経験者が入り混じった雑草軍団。メンバー表を見たら、ほとんど大阪で知られている名前はいない。東海大仰星とはあまりに戦力差がありすぎ、高1の最初に戦えば0-200になるような選手達。

当然だが、ラグビー推薦で来る人はほぼいない。

ラグビーを当たり前のようにしにきているわけでなく、ただなんとなく入ったラグビー部、どこからもオファーがなかった選手、新入生を全員で声かけてやっとのことで15人程度集めることに必死な早稲田摂陵には、全国大会なんて考えていない人たちが集い走り続けてきた。

ラグビーをしたことがない選手達は、ラグビーの厳しさに途中で離脱する選手もチラホラの中で、残った男たちは花園の舞台で戦うことを夢見て、ワセダの誇りを守るために戦うので1日、1回の練習の成長がすごい。何も描かれていない真っ白なキャンバスにラグビーのすべてをスポンジのように吸収できる能力だけは、雑草軍団のある意味強み。何も知らないのは、時に強みになる。コーチ陣がそれぞれのポジションでスペシャリストだからこそ、選手は成長する。

今週一週間は、大会期間とは思えない練習量。それもすべては決勝の対策のために。
そこでもう一つの幸運が今週あった。
神戸製鋼の田邊選手が練習に参加してくれたのだ。その日の練習はまさしく決勝戦で起こったことであった。平日にも関わらず仕事を休んで練習に参加した津金、吉田コーチと田邊選手がATするラインは迫力満点であった。加えて、長年FWを支えている森コーチも平日に来て、決勝の準備は着々と進んでいった。

「ラインDF」と「セットプレー」が試合のポイント。この2点でどれだけ対抗できるかで試合の結果は決まると想定し、練習は組み立てられていた。


 

試合への会場入り。
前回の試合とは違い、戦う男たちの顔をしていた。その表情からはこの1戦にかける想いが伝わってきた。
アップが始まるが、ボールが手につかない。
そこで金沢が「緊張しすぎ。もっとゲームを楽しもう」と一言。皆の顔からスッと緊張が抜けた。

コーチからも「普段通りやれば良い。学校のグランドだと思い、普段の練習してきていることができれば試合は進んでいく」とのアドバイスがあり、ミスはなくなった。

 

花園第3グランドに北風が響き、キックオフ。

入りは良かった。ミスはあれど、集中力を保ち自分たちのすべきことを実行していた。我々もボールが手につかず、仰星もボールが手につかなかった。このミスはいろいろな意味がある。スキルなところもあるが、お互いのプレッシャーが相手のミスを誘発させていた。最後の一線を突破する、させないための攻防がいろいろなところでなされていたのだ。だからこそ選手は集中していたので、単純なノッコン、手につかないという表現だけでは語ることはできない。そこには理由が複数ある。目に見えない攻防戦。

最初に流れを持ってきたのは早稲田摂陵。

ブレイクダウンで継続し、展開を幾度も図った。仰星の素早いプレッシャーに負けない前への圧力と継続スピード。

敵陣で10分間を過ごし、スクラムでAT、DFともにプレッシャーをかけ、継続しながらCTB平田がギャップに走り込み、裏に抜けたところでWTB人見、最後はLO辰見にボールが渡り、待望の先制点挙げる。まさか、先制するとは誰も思っていなかった。観客も含めて。ただ、選手は身体を張りながら実感していただろう。フィジカルバトルでは十分試合になると。そうなれば、押さえるポイントは限られてくるのがラグビー。そして、スクラムの1.5m攻防がすべての選手に希望を与えていた。



次のキックオフで自陣に張り付けられるが、ゴールラインは明け渡さず一進一退の攻防が続く。先週出来なかった気配りや目配り、集中力はあった。隙を見せれば相手はクイックスローで攻めてくるシーンがいくつかあったが、させなかった。

22mのピンチゾーンを脱して今度はセンタースクラムを得た。

ここでわずかであるが判断ミスを犯し、経験値の足りないところを露呈した。勝負の流れが我々から相手に渡ったシーンであった。



先制点から14分間我慢していたが、前半24分のラインアウトでゴール前に侵入され、FWにジャブを打たれ、BKにゴール左中央にトライされる。5-7と逆転される。さすがの一言であるが、我々にベクトルを向けなければいけない。いくつかの問題があった。そこは選手には要反省を促さなければならない。

前半30分のラストプレー。ゴール前ペナルティーで仰星がスクラムを選ぶ。今日の試合の一番ポイントであったシーン。それまでのスクラムは早稲田摂陵が支配していた。そのスクラムも確かに押した。だが、トライを奪われた。奪いきるスクラムとSHの判断が足りなかった。経験値の無さが生み出した必然のトライだった。この失敗をどう生かすかが大切である。経験値以外の部分もあるが、最も足りなかったのは「経験値」と誰もが理解したことである。

勝負の分かれ目だった。ここでトライを取られず前半を終了するかどうかで試合の流れは大きく変わったかもしれない。会場の誰もがそう思うぐらいとても大事なシーンであり、この試合のハイライトだった。だからこそわかったことは、日本一のチームの凄さだった。目指すべきチームなのである。
見えていた背中が一瞬にして遠くなり、掴みかけていた仰星へのプレッシャーを逃した。

後半開始早々に相手にラインアウトからゴール前まで侵入され、最後はFWのショートサイドATに押し込まれトライを奪われる。5-21

今度は早稲田摂陵がゴール前でラインアウトの機会を得るが、相手に上手く対応され、ボールをキープできない。相手との駆け引きを学び、引き出しを多くしなければならない。ここの部分はコーチング不足、落とし込み不足だっただろう。

それでも相手がミスをしてくれたところで、ゴール前5mスクラムを得る。そこからBKAT、そしてFWのショートサイドATでゴール1mまで近づくが、チャンスを逸する。仰星は確実に取りきり、早稲田摂陵は取り切れなかった。ここが大きな差である。得点を奪っていれば、まだまだプレッシャーをかけた状態でゲームが進行できたので、ゲームポイントの二つ目だっただろう。

取れなければ次にチャンスが来るのは、相手チームになるのは当たり前。このレベルで流れを逸することは、点数が開く原因。そこを理解できれば、この日学んだことは大きい。

そして、この日一番集中力がなくトライを奪われたシーンは、未経験者が陥りやすいボールから目を切り、隙を見せたシーン。無抵抗にペナルティーから速攻を許しトライを奪われた。5-28

 

それでもまだ反撃の機会を得て、相手ゴール前まで迫る。仰星ボールのスクラムをプッシュしペナルティーをもらう。ここで一番してはいけないクイックリスタート。スクラムの位置、攻める方向、相手の人数を考えれば、その判断はむしろ相手にとって好都合。結果は見ずしてわかること。

素人軍団がラグビーの教科書を知らないシーンであった。失敗から学ばなければいけないことだがポジティブに捉えれば、彼らには多くの経験が必要で教材が必要である。実体験は何事にも変えられない。それも日本一のチームと対戦すれば、それが正解か不正解か示してくれるのだから。

次回対戦した時には、必ずスクラムを選ぼう。その試合で一番勝っている、自信のあるプレー、1.5mの世界観を大切にして、相手と真っ向勝負すべきである。
そこでPRが「スクラム組もうぜ」と言えるようなチームにならなければ。

そんなたくさんの失敗と反省が散りばめられた試合に告げられる、ノーサイド。5-35

堂々と戦い、真っ向勝負で前半は苦しめた。むしろわずかながら勝つチャンスすらあった。

試合終了後の彼らの表情からは悔しさ、反省、後悔などの感情が読み取れた。目の前に迫った背中を自らのミス(判断ミス)によって、失ったのだから。

観ている人から
「ドキドキしました」

「面白い試合でした」

「これから期待できるね」

そんな言葉が選手たちに降り注いだが、喜んでいるものなどいない。勝ったチームが強い、ワセダラグビーは1番という文化があるから。悔しさしかなかっただろう。

負けたことを財産にしていかなければならない。

試合終了後の円陣でコーチ陣を見つめる眼差しも普段とは異なり、コーチ陣は何を求めているのか、我々には何が足りなかったのかを真剣に聞いていた。彼らは手探りで何となく思っていた目標を確かに捉え、自信をつけたに違いない

試合に負け、結果を残すことはできなかった。それでも、この試合から多くのことを学んだのは早稲田摂陵の方だっただろう。自分たちの練習が通じる部分がたくさんあり、それが点数として現れた。1年10ヶ月の努力は足りなさと期待を持たせるものだった。
練習は裏切らない。

この先彼らはどのような未来を描くのか。そこは努力しか解決できない。努力出来ることが才能でなければ追いつくことはできない。現時点での差は理解できた。我々がやっていることが通じる部分も多々あることも分かった。
だが、試合中に見たことと改めてビデオで見たことでは異なる。細部をよく見れば、我々の実力はまだまだである。足元を見つめなければいけない。それが理解できたとき、もっとゲームは引き締まった玄人好みになるだろう。

素人が多いからこそ、全員が主役になる。一人一人の情熱、責任感、希望、夢がチームの強さを決める。
入学当初にボールの前を走り出した男たちは、少しずつ頼もしくなっている。
「赤黒」「ワセダ」「北風」「荒ぶる」が我々を強くする。
早稲田大学も改革と進化の最中だ。
弟分の我々もそれに負けず、ワセダの誇りを持って成長していく。

4月の高校総体。残り2か月、8週間の間に我々は立ち止る暇はない。その答えが出るのは次の大会である。

応援する会の皆様、OBの皆様、保護者の皆様、ワセダラグビーファンの皆様
たくさんの応援ありがとうございました。