VS常翔学園 『津志田組ノーサイド。人生のすべてを懸けた60分間』
2013/11/03
11月3日、12時20分。
時計の針は急に止まってしまった。
何度動かそうとしても、何度叩いても、時計の針は動いてくれなかった。
夢だと思い寝てみたが、その時計の針はもう2度と動くことはなかった・・・・・・・
すべてが終わってしまった・・・・
ノーサイドの笛が鳴り響いた瞬間、すべての出来事がスローモーションのように目の前を通り過ぎた。倒れ込んで涙する者、その場で呆然と立ち尽くす者、その遠くに掲示された0-39という数字が突如として見えなくなった。雨だったからかもしれない・・・・・
津志田組の終焉。その日、この事実を受け入れられなかった。受け入れたくなかった。
津志田組にとって忘れられない日。そして、早稲田摂陵ラグビー部にとっても・・・・・
常翔学園は巨大な壁だった。伝統、文化、実績とも日本一と呼ばれるほど素晴らしいチーム。
昨年度日本一、選抜大会4強はとてつもない壁。我々には対抗できるほどの伝統や実績がない。だからといって、戦いを諦めたわけではない。
こちらの準備は万全だったはずだ。抽選結果から、すべての練習は常翔学園のために。それこそが11月3日に繋がると信じていた。
相手が強いのは分かりきっていた。だからこそ、1つのミスも練習中から許されなかった。練習は昨年より厳しく、今年のチームから初めてフィットネスを導入した。これにはいくつかの理由がある。その効果は間違いなくグランドに現れ、それはやっている選手が一番感じていたことだろう。
3年間という限られた時間の中で、追いつくためには休んでいる暇はなかった。365日、走り続けていた。途中何度か寄り道をしながら目的地・常翔学園を目指した。自信はあった。
昨年よりも強いチームになったのは間違いない。昨年の反省から練習メニューを組み立てたのだから当然と言えば当然だが、最後の1週間でそれはより強い確信に変わった。
最終目標を逆算したピリオダイゼーション。適切な時期に必要な戦術的・肉体的負荷をかける。
戦術的ピリオダイゼーションが我々早稲田のやりかた。素人軍団ならなおさらだ。パンクしないように頭の部分を鍛えながらの練習。練習は意図、目的を明確にしながら、基本から応用に発展させ試合中や練習中に戦術的負荷を与える。戦術的負荷の与え方はなにも一つではない。だからこそ、さまざまな状況が起こり得るラグビーに対応できる練習を組み立てなければいけない。
早稲田大学との合同練習では後藤監督や選手から直々に指導してもらい、早稲田のエッセンスを学んだ。さらに、早稲田大学の練習ビデオやサインプレービデオを提供してもらい、早稲田としての文化と伝統、そしてスキルを映像を通じて、ミーティングを通じて学んできた。
彼らは徐々にではあるが、この過程を通じてラグビーを理解し、勝ち方をこの3年間で学ぶ。
素人が全国レベルに挑戦することに夢があり、ロマンがある。
それを証明する戦い。
思い返すと、熊澤組と変わらないラグビーのラの字も知らないド素人軍団の津志田組のスタート。何人かの経験者が入部してくれたが、パスしたら前に待っている彼らに頭を抱えていた日々が懐かしい。ラグビー部に入った理由はさまざまだろう。だまされて入ったのかもしれない。興味本位で入ったのかもしれない。途中で辞めたい時もあっただろう。そんな彼らに本物の世界を見せたい一心で走り続けた3年間。だからこそ一切妥協しなかった。日本一を目指さないか、ワセダのラグビーはすごいぞと言って誘われ、この3年間でラグビーの魅力いや、早稲田摂陵ラグビーの魅力に気付いたに違いない。
ワセダラグビーは勝つことがすべて。そう言い続けた3年間。初めはわからなかっただろう。でも、次第に気付いた。負けるということがとても悔しいことに。悔しさが人を努力させる。そして、努力して勝ったとき、最高にスポーツは楽しいことに気付く。目標や夢を持っている人間は輝いている。間違いなく君たちの目は輝いていた。ワセダという名前が君たちを大きくし、その名前に負けないようにしなければならない想いが君たちをワセダらしくした。成長させた。
入学した時、3年生が一人もいないという状況。ほとんどの試合で勝てなかった。負け続けた。1年生から相手の3年生と戦い続けた。それでも信じて続けてくれたことに感謝したい。
そして、2年生になったころ、その成果は出始めた。初の花園予選ベスト4進出。
夢の舞台が現実の目標に変わった瞬間だった。
新チームでいきなりの新人戦準優勝や啓光との接戦も3年間の努力の現れだった。努力すれば素人でも可能性があるということを証明してくれた。
ボーリング大会やソフトボール大会などONとOFFの切り替えができる3年生。
朝の挨拶運動を自ら計画するなど、ラグビーだけでなくモラルのある人間であるべきだと実行した3年生。
最初の頃は何も出来なかったのに早稲田としての3年生を体現した背中。
1回戦
万全だったとは言えない。けが人を多数抱えたままのシーズン・イン。そして、そこには大黒柱の主将、副将2人が試合には出ていなかった。そして、主将の津志田と副将の吉田は9、10月には復帰は不可能であった。つまり、この予選の2試合は彼らなしで戦わなくてはならなかった。そんな危機感すらない3年生は練習中からぬるく、静かであった。本来、早稲田が持たなければならない人としての熱というものがグランドには感じられず、コーチの怒号が飛んでいた。それでも、変わらなかった。変われなかった。
静かな男、黙々とやる男という評価は一見すれば、良い風に聞こえるが、実際は他人任せ、自分勝手、熱の不足ということだった。そう、グランドに立てば必ず必要なもの。コーリング。大きな声を出す。そして、周りの仲間に火をつける。もっとも大切で早稲田の練習であるべき「熱」。熱とは真剣さの現れだと思っていた。そんなぬるい雰囲気を抱えたまま迎えた9月。
2回戦
伝統ある天王寺高校との対戦。小さい体でも前に出てくるDFに学ぶことが多かった試合。この試合は主務の間瀬が電撃復帰した試合であった。仲間の大切さとともに意地でも彼の出場を勝ち取るためにまとまった試合。
たくさんの試合を通じてここまで辿り着いた。多くの負け、多くの勝ちから学んだラグビーという競技の難しさ、すべての集大成は11月3日の為であった。
すべての出来事に意味があり、万全の状態で常翔学園戦を迎えた。
常翔戦前日
試合前練習の決意表明で3年生が涙ながらに発した言葉の数々、下級生が先輩たちへの想いを述べた言葉、どれもが明日の試合の大きさと、ワセダとしての血が流れている発言だった。
主将、副将が戦列に復帰し、ベストメンバーとなった。
多数の観客がいる中での試合前練習には緊張感が流れる。明日の試合への最高の準備と今年取り組んできたことの確認。そして、最後はやはりタックル。押し込みタックルで最後の練習を終えた。
当日のアップはこの4年間で最高に熱かった。
すべては最高だった。何度も組む円陣でワセダの熱は最高潮になった。それでも、まだ何かが足りなかった。普通の試合ではない、この日は人生を懸けた60分。歴史を変えると言ったあいつらの言葉を体現させる為には不十分だと感じた。そう感じた瞬間、無意識にタックルダミーを持っていた。
彼らの決意を受け止めることが指導者として最高の送り出し方ではないのかとそう思った。3年生13人、一人一人の激しいタックルを受け、地面に叩き付けられる度に彼らに『頼むぞ』と声をかけた。タックルすら出来なかったはじめのころを思い出したら、彼らのタックルは想像を遥かに越える強さだったし、たくさんの想いが体中に伝わって来た。『覚悟』『決意』『3年間』『早稲田』『仲間』さまざまな想いが受けている間に駆け巡った。家族よりも長い時間共にしているような、生徒としての域を超えたもはや『家族』だと思えるぐらい考えていることがわかる。そんな存在だからこそ、気持ちが伝わってきた。そして、最後に主将・津志田のタックルを受け『絶対に勝ってきます』と言われた瞬間、最高のワセダラガーマンになったと確信した。
絶対に勝てると信じていた。
『この3年間ずっとお前らのことを見ていたのは俺だ。どんなに厳しいことを言っても、厳しい練習をしてもお前らはついてきた。絶対に勝てる。お前らのことを信じている。最高の60分間にしよう。明日もお前らとラグビーがしたい。絶対に勝とう』と送り出し、津志田を中心にグランドに北風が響き渡った。
11時10分キックオフ
たった60分に人生をかけるために挑んだ試合。
キックオフからすぐに得たマイボールスクラム。
スクラムが負けたらラグビーは負ける。そう言い続けてきた。常翔のスクラムは大阪でも一番だということ、いや全国でも一番だと思っていた。それだからこそ、このファーストスクラムが大切だとミーティングで言い続けて来た。スクラムが止まればそれはチームに勇気を与えると。
そして、ファーストスクラムで彼らは常翔のスクラムを止めてみせた。平均体重94kgのFWは彼らが努力して手に入れたもの。3年間の努力で相手の背中に追いついた瞬間だった。素直にかっこよかった。観ている人が理解できたかはわからないが、この3年間で追いつけるのだからすごいことやっているんだと心が震えた。
それでも、時計の針が5分を経過したところで常翔学園はあっさりとトライしてみせた。さすがは昨年度王者・常翔学園。立っている選手はすべて中学の時の有名選手。選抜選手。観ている者を魅了できる選手たちは素晴らしかった。
このまま、ズルズルいくのかと思っていたが、我々もタックル、タックル、タックル、とにかくタックルの嵐で相手を前に出させなかった。FWフェイズで来る相手に対して、2、3人で応戦して押し返してみせた。素早い寄せと前に出るタックルに心は揺さぶられた。ワセダはタックルだと言い続けて来た。タックルできない奴は信用されない。身体を張れない選手はワセダではない。上手い下手とかタックルにはあまり関係ない。そんな言葉を体現するか如く、いやそんな試合ではないか。仲間との約束と明日もこいつらとラグビーをするために、たとえ骨が折れようが、肩が外れようが自分の後ろは通さないという気持ちだっただろう。当たり前のように、タックル=早稲田ラグビーというDNAを感じられた。
前半の20分にもう1トライされ10-0.これは正直痛かった。
相手に弾かれ失点を喫した。決して逃げたわけではないが、なぜ止められなかった、何が足りなかったかは練習中に本人が言われていることだから一番感じていることだろう。
そして、25分にPGを決められ13-0となって前半を終了した。
想定では7点差以内で前半を終了することであったので、土俵際に追い込まれたことは間違いない。
3トライ以内、1PGが勝負の分かれ目だと考えていたからである。
そして、攻撃権がほとんどなかったのは厳しい状況だった。いくらDFチームを作っていても、常翔学園相手にずっと守り続けることは不可能だからだ。
ハーフタイム
リスクを冒して攻めに行こう。あと30分、まだまだいけるよな。この3年間の30分しかなくなったぞ。意地でも得点を取りに行け。まずは後半の先取点が必要だ。0-13ならまだまだわからないぞ。先に仕掛けろ。
後半キックオフ
後半すぐに常翔学園のPGは外れたが、その後も自陣に張り付けにされ続けた。
確かに差はあった。常翔学園は強かった。それは認めなければいけないことであった。だが、彼らはゲームプランと規律を守った。それはチームとしての約束。自分の横を通さない、二人の間は通さないこと。ゴール前で人数が削られても、人のいるところでのトライはさせなかった。それが早稲田としての意地だった。
常翔の10番は素晴らしかった。我々の隙を逃さず、パスが無理と判断するとキックパスに切り替えた。それも正確に。それは今の早稲田には対応することはできなかった。
だが、PG3本を狙ってきたところは常翔の試合巧者ぶりと共に早稲田が認められた瞬間だったのかもしれない。
試合中には多くの学校の仲間、OB,保護者から声援が飛び交い、いつも隣で切磋琢磨しているサッカー部からは応援歌で勇気をもらった。本当にたくさんの方に勇気づけられ、支えられ、彼らは今日のピッチに立っていることを実感したに違いない。応援に来てくれた皆様に感謝したい。
だからこそ、1トライがほしかった。でも、最後の最後までゴールラインは遠かった。
ひたすらDFする時間が続いた。それでも魂を込めて、赤黒の誇りを胸に、ワセダの血が流れている者として、この一瞬にすべてを懸けて、俺たちはワセダなんだとタックルで表現した60分。
たった60分にすべてをかけるという言葉の体現。
だから諦めなかった。
最後まで諦めなかった。それも、ワセダらしさの一つだから。
あと、1プレーでも諦めなかった。
仲間を信じ、出られない選手の想いを背負い、最後の最後まで勝利を信じた。
前半、止めていたスクラムも後半の時間が経過するごとに押され、タックルも少しずつ甘くなって来た。
それでも、周りを見渡せば諦める仲間は誰一人としていなかった。自分は一人ではない。
ラグビーの良いところ。誰かの為に、そして自分の為にできるところが素晴らしいスポーツである。
そんな時間を一生終わらせたくない。この仲間ともっとラグビーがしたいと本気で思い努力した日々に告げる
ノーサイドの笛・・・・・・・
津志田組の3年間の挑戦は終わった。
悔しさでいっぱいのはずなのに彼らはしっかりと整列し、相手チームへの挨拶、グランドへの挨拶、そして応援席への挨拶を堂々とグランドに響き渡る声で行った。今年一年間もっとも大切にしていたこと。
そんな彼らに拍手を送りたい。
最後の最後までワセダらしかったと。
藤森コーチ
素晴らしい3年生だったと思います。彼らは最高の準備をしたのに負けてしまったので、我々スタッフの責任です。この4年間で最高のアップだったと思います。人として大切な熱さというものを感じました。観ている人にもワセダがどうゆうチームなのか、生き様が伝わったと思います。ラグビーが上手い下手という部分ではなく、熱さがチーム力だと思いますしワセダらしさだと思います。結果は伴わなかったけど、昨年よりも強いチームでした。それは熊澤組があったからこそ。今年一年はDFをメインにやってきて、タックルの部分ではかなり良かったですし、二人目の寄りや三人目の寄りも常翔相手にあれだけできたのだから胸を張ってほしいなと思います。アップで一人一人のタックルを受けて本当に成長したなと身を持って感じました。本当に最高の生徒です。一番伝えたかったことが彼らには伝わっていたんだと思います。
たくさんの涙がありました。それは、真剣にやっているからこそだと思います。そうゆう瞬間は人生で忘れられない出来事になるだろうし、最高の瞬間だと思います。
試合は純粋に常翔が強かった。ジワジワとゴール前まで来られて失点しまいました。もう少し、攻める機会があれば僕らも用意していたプランには自信はありましたが、そこまでいけないところに常翔の強さを感じました。ただ、昨年の東海大仰星よりも今年の常翔学園の方が戦えたという点でチームは進歩しました。それは間違いありません。それでもまだまだ、勝てないということを今日は見せつけられ、もっと厳しい練習をしていかなければならないと教えられました。毎年、練習メニューは進歩し、発展しています。だからこそ、素人でも対抗できると思っています。3年間で彼らはかなり追いついたと思います。
また、彼らはラグビー以外の部分もたくさん学んだと思います。むしろ、人間性の部分をたくさん指導されたかもしれません。ラグビーをする前に、まずは一人の人間としてどうあるべきか、そして、早稲田のラガーマンとしてどうあるべきかを考えさせられたと思います。最後の試合で素晴らしい人間になったと思います。早稲田という看板に恥じないために自らが努力する、これが他のチームにない我々の文化だと思います。その中で、人の想いを背負える人間、人に熱を持たせられる人間、夢や目標を純粋に追い求めていける人間、挨拶のできる人間、仲間を大切にできる人間。ここでは表し切れないほどたくさん成長していました。負けても大きな声で相手チーム、そして応援してくださった皆様に挨拶する彼らの姿は本当に誇らしかった。
強くなることとはラグビーだけでなく、人間的に強く、そして優しくなければいけないとわかったと思います。
後輩は今日の3年生の姿を観て、何を感じたのでしょうか?ラグビーを始めたばかりの1年生はどう感じたのでしょうか?なぜ、これほどまでに熱くなれるのか。なぜ、早稲田ラグビーは誇りを持たなければいけないのか気づかされたと思います。かっこいい男とはどんな人かわかったと思います。辞めたいとか思うこともあると思うけど、三年間ここでラグビーをすれば今日のような立派な三年生に君たちもなれます。
毎年のように新チームになった当初はこの悔しさを忘れないで練習しているんだけど、時が経つにつれ、その事実を忘れ、自分たちに甘くなる。この悔しさを365日持っていられるかが大切です。
三年生、本当に最後までついてきてくれてありがとう。本当に君たちが努力したことはいつか大きな花を咲かせると確信しています。それと同時に、おれにも新しく背負うものができました。君たちを花園に連れていき、あの悔し涙をうれし涙に変えてみせます。ラグビーを通じて多くのことを学んだと思います。夢を持つこと、熱く生きること。そして、何よりも自分の仲間を大切にすること。人生で大切なことは学んだと思います。そして、こんな熱いチームの指導が出来て誇りに思います。熱くなれる場所を共有できて最高に素晴らしい時間でした。これからは、OBとしてチームを見守ってください。また、いつか一緒にこのメンバーでラグビーをしよう!
だから、これからもグランドに来てくれよな。最高のタックルだった!!
応援してくださった皆様
雨の中本当にありがとうございました。たくさんの応援に選手一同励まされ、勇気をもらいました。心より御礼申し上げます。
時計の針は急に止まってしまった。
何度動かそうとしても、何度叩いても、時計の針は動いてくれなかった。
夢だと思い寝てみたが、その時計の針はもう2度と動くことはなかった・・・・・・・
すべてが終わってしまった・・・・
ノーサイドの笛が鳴り響いた瞬間、すべての出来事がスローモーションのように目の前を通り過ぎた。倒れ込んで涙する者、その場で呆然と立ち尽くす者、その遠くに掲示された0-39という数字が突如として見えなくなった。雨だったからかもしれない・・・・・
津志田組の終焉。その日、この事実を受け入れられなかった。受け入れたくなかった。
津志田組にとって忘れられない日。そして、早稲田摂陵ラグビー部にとっても・・・・・
常翔学園は巨大な壁だった。伝統、文化、実績とも日本一と呼ばれるほど素晴らしいチーム。
昨年度日本一、選抜大会4強はとてつもない壁。我々には対抗できるほどの伝統や実績がない。だからといって、戦いを諦めたわけではない。
こちらの準備は万全だったはずだ。抽選結果から、すべての練習は常翔学園のために。それこそが11月3日に繋がると信じていた。
相手が強いのは分かりきっていた。だからこそ、1つのミスも練習中から許されなかった。練習は昨年より厳しく、今年のチームから初めてフィットネスを導入した。これにはいくつかの理由がある。その効果は間違いなくグランドに現れ、それはやっている選手が一番感じていたことだろう。
3年間という限られた時間の中で、追いつくためには休んでいる暇はなかった。365日、走り続けていた。途中何度か寄り道をしながら目的地・常翔学園を目指した。自信はあった。
昨年よりも強いチームになったのは間違いない。昨年の反省から練習メニューを組み立てたのだから当然と言えば当然だが、最後の1週間でそれはより強い確信に変わった。
最終目標を逆算したピリオダイゼーション。適切な時期に必要な戦術的・肉体的負荷をかける。
戦術的ピリオダイゼーションが我々早稲田のやりかた。素人軍団ならなおさらだ。パンクしないように頭の部分を鍛えながらの練習。練習は意図、目的を明確にしながら、基本から応用に発展させ試合中や練習中に戦術的負荷を与える。戦術的負荷の与え方はなにも一つではない。だからこそ、さまざまな状況が起こり得るラグビーに対応できる練習を組み立てなければいけない。
早稲田大学との合同練習では後藤監督や選手から直々に指導してもらい、早稲田のエッセンスを学んだ。さらに、早稲田大学の練習ビデオやサインプレービデオを提供してもらい、早稲田としての文化と伝統、そしてスキルを映像を通じて、ミーティングを通じて学んできた。
彼らは徐々にではあるが、この過程を通じてラグビーを理解し、勝ち方をこの3年間で学ぶ。
素人が全国レベルに挑戦することに夢があり、ロマンがある。
それを証明する戦い。
思い返すと、熊澤組と変わらないラグビーのラの字も知らないド素人軍団の津志田組のスタート。何人かの経験者が入部してくれたが、パスしたら前に待っている彼らに頭を抱えていた日々が懐かしい。ラグビー部に入った理由はさまざまだろう。だまされて入ったのかもしれない。興味本位で入ったのかもしれない。途中で辞めたい時もあっただろう。そんな彼らに本物の世界を見せたい一心で走り続けた3年間。だからこそ一切妥協しなかった。日本一を目指さないか、ワセダのラグビーはすごいぞと言って誘われ、この3年間でラグビーの魅力いや、早稲田摂陵ラグビーの魅力に気付いたに違いない。
ワセダラグビーは勝つことがすべて。そう言い続けた3年間。初めはわからなかっただろう。でも、次第に気付いた。負けるということがとても悔しいことに。悔しさが人を努力させる。そして、努力して勝ったとき、最高にスポーツは楽しいことに気付く。目標や夢を持っている人間は輝いている。間違いなく君たちの目は輝いていた。ワセダという名前が君たちを大きくし、その名前に負けないようにしなければならない想いが君たちをワセダらしくした。成長させた。
入学した時、3年生が一人もいないという状況。ほとんどの試合で勝てなかった。負け続けた。1年生から相手の3年生と戦い続けた。それでも信じて続けてくれたことに感謝したい。
そして、2年生になったころ、その成果は出始めた。初の花園予選ベスト4進出。
夢の舞台が現実の目標に変わった瞬間だった。
新チームでいきなりの新人戦準優勝や啓光との接戦も3年間の努力の現れだった。努力すれば素人でも可能性があるということを証明してくれた。
ボーリング大会やソフトボール大会などONとOFFの切り替えができる3年生。
朝の挨拶運動を自ら計画するなど、ラグビーだけでなくモラルのある人間であるべきだと実行した3年生。
最初の頃は何も出来なかったのに早稲田としての3年生を体現した背中。
1回戦
万全だったとは言えない。けが人を多数抱えたままのシーズン・イン。そして、そこには大黒柱の主将、副将2人が試合には出ていなかった。そして、主将の津志田と副将の吉田は9、10月には復帰は不可能であった。つまり、この予選の2試合は彼らなしで戦わなくてはならなかった。そんな危機感すらない3年生は練習中からぬるく、静かであった。本来、早稲田が持たなければならない人としての熱というものがグランドには感じられず、コーチの怒号が飛んでいた。それでも、変わらなかった。変われなかった。
静かな男、黙々とやる男という評価は一見すれば、良い風に聞こえるが、実際は他人任せ、自分勝手、熱の不足ということだった。そう、グランドに立てば必ず必要なもの。コーリング。大きな声を出す。そして、周りの仲間に火をつける。もっとも大切で早稲田の練習であるべき「熱」。熱とは真剣さの現れだと思っていた。そんなぬるい雰囲気を抱えたまま迎えた9月。
2回戦
伝統ある天王寺高校との対戦。小さい体でも前に出てくるDFに学ぶことが多かった試合。この試合は主務の間瀬が電撃復帰した試合であった。仲間の大切さとともに意地でも彼の出場を勝ち取るためにまとまった試合。
たくさんの試合を通じてここまで辿り着いた。多くの負け、多くの勝ちから学んだラグビーという競技の難しさ、すべての集大成は11月3日の為であった。
すべての出来事に意味があり、万全の状態で常翔学園戦を迎えた。
常翔戦前日
試合前練習の決意表明で3年生が涙ながらに発した言葉の数々、下級生が先輩たちへの想いを述べた言葉、どれもが明日の試合の大きさと、ワセダとしての血が流れている発言だった。
主将、副将が戦列に復帰し、ベストメンバーとなった。
多数の観客がいる中での試合前練習には緊張感が流れる。明日の試合への最高の準備と今年取り組んできたことの確認。そして、最後はやはりタックル。押し込みタックルで最後の練習を終えた。
当日のアップはこの4年間で最高に熱かった。
すべては最高だった。何度も組む円陣でワセダの熱は最高潮になった。それでも、まだ何かが足りなかった。普通の試合ではない、この日は人生を懸けた60分。歴史を変えると言ったあいつらの言葉を体現させる為には不十分だと感じた。そう感じた瞬間、無意識にタックルダミーを持っていた。
彼らの決意を受け止めることが指導者として最高の送り出し方ではないのかとそう思った。3年生13人、一人一人の激しいタックルを受け、地面に叩き付けられる度に彼らに『頼むぞ』と声をかけた。タックルすら出来なかったはじめのころを思い出したら、彼らのタックルは想像を遥かに越える強さだったし、たくさんの想いが体中に伝わって来た。『覚悟』『決意』『3年間』『早稲田』『仲間』さまざまな想いが受けている間に駆け巡った。家族よりも長い時間共にしているような、生徒としての域を超えたもはや『家族』だと思えるぐらい考えていることがわかる。そんな存在だからこそ、気持ちが伝わってきた。そして、最後に主将・津志田のタックルを受け『絶対に勝ってきます』と言われた瞬間、最高のワセダラガーマンになったと確信した。
絶対に勝てると信じていた。
『この3年間ずっとお前らのことを見ていたのは俺だ。どんなに厳しいことを言っても、厳しい練習をしてもお前らはついてきた。絶対に勝てる。お前らのことを信じている。最高の60分間にしよう。明日もお前らとラグビーがしたい。絶対に勝とう』と送り出し、津志田を中心にグランドに北風が響き渡った。
11時10分キックオフ
たった60分に人生をかけるために挑んだ試合。
キックオフからすぐに得たマイボールスクラム。
スクラムが負けたらラグビーは負ける。そう言い続けてきた。常翔のスクラムは大阪でも一番だということ、いや全国でも一番だと思っていた。それだからこそ、このファーストスクラムが大切だとミーティングで言い続けて来た。スクラムが止まればそれはチームに勇気を与えると。
そして、ファーストスクラムで彼らは常翔のスクラムを止めてみせた。平均体重94kgのFWは彼らが努力して手に入れたもの。3年間の努力で相手の背中に追いついた瞬間だった。素直にかっこよかった。観ている人が理解できたかはわからないが、この3年間で追いつけるのだからすごいことやっているんだと心が震えた。
それでも、時計の針が5分を経過したところで常翔学園はあっさりとトライしてみせた。さすがは昨年度王者・常翔学園。立っている選手はすべて中学の時の有名選手。選抜選手。観ている者を魅了できる選手たちは素晴らしかった。
このまま、ズルズルいくのかと思っていたが、我々もタックル、タックル、タックル、とにかくタックルの嵐で相手を前に出させなかった。FWフェイズで来る相手に対して、2、3人で応戦して押し返してみせた。素早い寄せと前に出るタックルに心は揺さぶられた。ワセダはタックルだと言い続けて来た。タックルできない奴は信用されない。身体を張れない選手はワセダではない。上手い下手とかタックルにはあまり関係ない。そんな言葉を体現するか如く、いやそんな試合ではないか。仲間との約束と明日もこいつらとラグビーをするために、たとえ骨が折れようが、肩が外れようが自分の後ろは通さないという気持ちだっただろう。当たり前のように、タックル=早稲田ラグビーというDNAを感じられた。
前半の20分にもう1トライされ10-0.これは正直痛かった。
相手に弾かれ失点を喫した。決して逃げたわけではないが、なぜ止められなかった、何が足りなかったかは練習中に本人が言われていることだから一番感じていることだろう。
そして、25分にPGを決められ13-0となって前半を終了した。
想定では7点差以内で前半を終了することであったので、土俵際に追い込まれたことは間違いない。
3トライ以内、1PGが勝負の分かれ目だと考えていたからである。
そして、攻撃権がほとんどなかったのは厳しい状況だった。いくらDFチームを作っていても、常翔学園相手にずっと守り続けることは不可能だからだ。
ハーフタイム
リスクを冒して攻めに行こう。あと30分、まだまだいけるよな。この3年間の30分しかなくなったぞ。意地でも得点を取りに行け。まずは後半の先取点が必要だ。0-13ならまだまだわからないぞ。先に仕掛けろ。
後半キックオフ
後半すぐに常翔学園のPGは外れたが、その後も自陣に張り付けにされ続けた。
確かに差はあった。常翔学園は強かった。それは認めなければいけないことであった。だが、彼らはゲームプランと規律を守った。それはチームとしての約束。自分の横を通さない、二人の間は通さないこと。ゴール前で人数が削られても、人のいるところでのトライはさせなかった。それが早稲田としての意地だった。
常翔の10番は素晴らしかった。我々の隙を逃さず、パスが無理と判断するとキックパスに切り替えた。それも正確に。それは今の早稲田には対応することはできなかった。
だが、PG3本を狙ってきたところは常翔の試合巧者ぶりと共に早稲田が認められた瞬間だったのかもしれない。
試合中には多くの学校の仲間、OB,保護者から声援が飛び交い、いつも隣で切磋琢磨しているサッカー部からは応援歌で勇気をもらった。本当にたくさんの方に勇気づけられ、支えられ、彼らは今日のピッチに立っていることを実感したに違いない。応援に来てくれた皆様に感謝したい。
だからこそ、1トライがほしかった。でも、最後の最後までゴールラインは遠かった。
ひたすらDFする時間が続いた。それでも魂を込めて、赤黒の誇りを胸に、ワセダの血が流れている者として、この一瞬にすべてを懸けて、俺たちはワセダなんだとタックルで表現した60分。
たった60分にすべてをかけるという言葉の体現。
だから諦めなかった。
最後まで諦めなかった。それも、ワセダらしさの一つだから。
あと、1プレーでも諦めなかった。
仲間を信じ、出られない選手の想いを背負い、最後の最後まで勝利を信じた。
前半、止めていたスクラムも後半の時間が経過するごとに押され、タックルも少しずつ甘くなって来た。
それでも、周りを見渡せば諦める仲間は誰一人としていなかった。自分は一人ではない。
ラグビーの良いところ。誰かの為に、そして自分の為にできるところが素晴らしいスポーツである。
そんな時間を一生終わらせたくない。この仲間ともっとラグビーがしたいと本気で思い努力した日々に告げる
ノーサイドの笛・・・・・・・
津志田組の3年間の挑戦は終わった。
悔しさでいっぱいのはずなのに彼らはしっかりと整列し、相手チームへの挨拶、グランドへの挨拶、そして応援席への挨拶を堂々とグランドに響き渡る声で行った。今年一年間もっとも大切にしていたこと。
そんな彼らに拍手を送りたい。
最後の最後までワセダらしかったと。
藤森コーチ
素晴らしい3年生だったと思います。彼らは最高の準備をしたのに負けてしまったので、我々スタッフの責任です。この4年間で最高のアップだったと思います。人として大切な熱さというものを感じました。観ている人にもワセダがどうゆうチームなのか、生き様が伝わったと思います。ラグビーが上手い下手という部分ではなく、熱さがチーム力だと思いますしワセダらしさだと思います。結果は伴わなかったけど、昨年よりも強いチームでした。それは熊澤組があったからこそ。今年一年はDFをメインにやってきて、タックルの部分ではかなり良かったですし、二人目の寄りや三人目の寄りも常翔相手にあれだけできたのだから胸を張ってほしいなと思います。アップで一人一人のタックルを受けて本当に成長したなと身を持って感じました。本当に最高の生徒です。一番伝えたかったことが彼らには伝わっていたんだと思います。
たくさんの涙がありました。それは、真剣にやっているからこそだと思います。そうゆう瞬間は人生で忘れられない出来事になるだろうし、最高の瞬間だと思います。
試合は純粋に常翔が強かった。ジワジワとゴール前まで来られて失点しまいました。もう少し、攻める機会があれば僕らも用意していたプランには自信はありましたが、そこまでいけないところに常翔の強さを感じました。ただ、昨年の東海大仰星よりも今年の常翔学園の方が戦えたという点でチームは進歩しました。それは間違いありません。それでもまだまだ、勝てないということを今日は見せつけられ、もっと厳しい練習をしていかなければならないと教えられました。毎年、練習メニューは進歩し、発展しています。だからこそ、素人でも対抗できると思っています。3年間で彼らはかなり追いついたと思います。
また、彼らはラグビー以外の部分もたくさん学んだと思います。むしろ、人間性の部分をたくさん指導されたかもしれません。ラグビーをする前に、まずは一人の人間としてどうあるべきか、そして、早稲田のラガーマンとしてどうあるべきかを考えさせられたと思います。最後の試合で素晴らしい人間になったと思います。早稲田という看板に恥じないために自らが努力する、これが他のチームにない我々の文化だと思います。その中で、人の想いを背負える人間、人に熱を持たせられる人間、夢や目標を純粋に追い求めていける人間、挨拶のできる人間、仲間を大切にできる人間。ここでは表し切れないほどたくさん成長していました。負けても大きな声で相手チーム、そして応援してくださった皆様に挨拶する彼らの姿は本当に誇らしかった。
強くなることとはラグビーだけでなく、人間的に強く、そして優しくなければいけないとわかったと思います。
後輩は今日の3年生の姿を観て、何を感じたのでしょうか?ラグビーを始めたばかりの1年生はどう感じたのでしょうか?なぜ、これほどまでに熱くなれるのか。なぜ、早稲田ラグビーは誇りを持たなければいけないのか気づかされたと思います。かっこいい男とはどんな人かわかったと思います。辞めたいとか思うこともあると思うけど、三年間ここでラグビーをすれば今日のような立派な三年生に君たちもなれます。
毎年のように新チームになった当初はこの悔しさを忘れないで練習しているんだけど、時が経つにつれ、その事実を忘れ、自分たちに甘くなる。この悔しさを365日持っていられるかが大切です。
三年生、本当に最後までついてきてくれてありがとう。本当に君たちが努力したことはいつか大きな花を咲かせると確信しています。それと同時に、おれにも新しく背負うものができました。君たちを花園に連れていき、あの悔し涙をうれし涙に変えてみせます。ラグビーを通じて多くのことを学んだと思います。夢を持つこと、熱く生きること。そして、何よりも自分の仲間を大切にすること。人生で大切なことは学んだと思います。そして、こんな熱いチームの指導が出来て誇りに思います。熱くなれる場所を共有できて最高に素晴らしい時間でした。これからは、OBとしてチームを見守ってください。また、いつか一緒にこのメンバーでラグビーをしよう!
だから、これからもグランドに来てくれよな。最高のタックルだった!!
応援してくださった皆様
雨の中本当にありがとうございました。たくさんの応援に選手一同励まされ、勇気をもらいました。心より御礼申し上げます。
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