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VS関西創価 『赤黒軍団、ファイナルの舞台へ』

2013/01/29

試合終了を告げる笛が鳴り響いた瞬間、我々は決勝戦の切符を手に入れた。

苦しんだ。苦しんだからこそ掴んだ勝利は早稲田摂陵のすべての関係者の胸に熱いものをもたらした。

 

2013127日準決勝。

我々が新たな扉を開いた瞬間にいつもの背番号9はグランドにいなかった。早稲田摂陵、早稲田ラグビーの象徴である『Control tower』を欠いた『津志田組』は幾度となく窮地に追い込まれ、危機に晒されながらもブレることなく自らが築いてきたスタイルを実行し全員で準決勝という壁を乗り越えた。 そこには確かに早稲田がいた。幾度となく押し寄せる波に全身全霊を込めてタックルする早稲田が。相手がミスしたボールに身体を張って素早くセービングして得点に結びつける早稲田が。そして、何よりも絶対に負けられないという早稲田のDNAが植えつけられた早稲田が。このゴールラインを守ることが、最後の一線を超えさせないことが早稲田のプライド!
 



(写真提供・北川さん)
 

敵は関西創価高校。

伝統的にFWが大きく、強い。練習試合でも何度か対戦したがそのフィジカルを前面に押し出したスタイルは脅威である。一旦ゴール前に来られたら、7点を覚悟しなければならないチーム。だからこそ、ペナルティーはしない。ゴール前にこさせないことを意識させ試合に臨んだ。

そして、もう一つのこだわり。FW勝負で負ける訳にはいかない。

大事な試合では先制点というものが非常に大切である。追う立場のものは非常に苦しくなってくる。

 

気持ちは十分に作っていても、ゲームプランの確認をしていても高校生のゲームは計算通りにいかない。早稲田摂陵の9番を3年間背負う男の不在は見えないところで影響を与えていたに違いない。だが、この日先発した次世代を担う9番・玉矢はゲームを上手くコントロールしFWBKにバランスよくボールを供給していた。フィジカルが伸びればその才能はさらに生かされるに違いない。

 

ゲームはキックオフから連続攻撃でゴール前へ迫り、相手のミスで得たスクラムから最後は中西が飛び込み先取点を上げる。相手が波に乗る前にこの試合で大切な先取点を取ったことでゲームは開始された。

その後は、大型FWの執拗なショートサイドATとモールATでジワジワとゲインを切られ、我慢できず反則の繰り返しでゴール前に貼付けられる。

幾度となく脱出するチャンスはあるが、それを生かすことが出来ず相手のミスに付き合い、最後はこの日最大の脅威であった3番からのモールでゴールラインを割られ同点とされる。

嫌な空気が流れるが、この試合で抜群のパフォーマンスを見せたのはNO8・中西。

中学生時代の彼を見た時から、間違いなくすごい選手になると思っていた。プレーが目立つのはもちろんのことだが、玄人好みの痛い仕事ができる数少ない選手。セービングを躊躇なくできる彼は間違いなく大学に入っても重宝される存在。

前半終了間際にゴール前で得たペナルティーから最後は中西が飛び込み、12-5でリードして前半を折り返す。このトライはチームを精神的に楽にさせた。

 

『ペナルティーが多い。自らリズムを失うきっかけを作っている。規律、モラルを大切に後半の先取点を絶対に取ること。この30分で決勝への道が決まる。しっかりと与えられた責任と自分たちがすべきことを確認しよう』

 

とコーチから指示が与えられる。


 

 

後半最初のキックオフを中西がキャッチするとそのままFWでつないで、最後はBKに展開し平尾がゴールに飛び込み後半の先取点も奪う。ゲームのポイントを押させるビックプレーで後半は開始された。

その後、相手のゴール前に迫るがPKで得たタッチキックをミスするとマイボールラインアウトもノットストレートとゲームのポイントを押さえられず、ゲームを停滞させる。この日の拠り所はスクラム。平均体重90kgオーバーのFWが幾度となく相手の大型FWからスクラムをターンオーバーしてチームを助ける。東海大仰星を押したスクラムは健在。『早稲田摂陵=スクラム』はこの日も証明した。

この日の最大のGOODポイントはノットストレートからの相手ボールスクラムをターンオーバーしてトライにつなげたシーン。悪い流れはFW全員が取り返すという意識。ミスしたら取り返すというここ一番の集中力と信頼関係こそ良いリズムを作り出す。

ゴール前の相手スクラムをターンオーバーするとそこから連続でFWが攻撃し最後は安井が飛び込む。このトライはFW8人、そして何よりも前3人のプライドの勝利。

しかし、直後のキックオフでミスしゲームのポイントを押さえず、またまたゴール前に貼付けられ、反則を繰り返し最後はインゴールを明け渡す。時間が少なっても局地戦をチョイスしてくる相手に対してFWの集中力、コミュニケーションも高まり、たまらず関西創価がBKに展開しミスすると、そのこぼれたボールを一気にカウンターで持っていき、最後は高畠が飛び込み引き離す。

だが、関西創価のFWも徹底して早稲田摂陵の近場にATしてモールを組みにくる。ここのエリアへの執着とスキルの高さは秀逸。押す方向の統一、自分たちのゲームプランを徹底して行うプライドに三度ゴールラインを明け渡す。

だが、攻撃力なら負けていない。ブレイクダウンの連取でゴール前まで迫ると最後はキャプテン・津志田がトライし、38-17でゲームを終えた。



 

 

我慢に我慢を重ねてもぎ取った1勝。この1勝は新たな早稲田摂陵ラグビーの歴史の1ページに書き加えられた。

摂陵時代から何十年ぶりかの決勝戦。もはやその歴史は忘れ去られようとしていた過去。早稲田の冠がついてからは初。

乗り越えなければならない準決勝の壁であった。準決勝は熊澤組が新人戦、花園予選と敗れた高き壁。素人軍団が乗り越えるためにはこの大阪という地はかなりハードルが高い。

だが、あの熊澤組が乗り越えることができなかったという事実は僕らに危機感を与え、同時にこの時期に何をすべきかを示してくれた。この3年間のすべての出来事がこの日の勝利につながった。『真島組』『熊澤組』そしてそれを受け継いだ『津志田組』の勝利。

 

いよいよ、決戦の地『花園』

 

あの屈辱を受けた舞台からわずか2か月で再度この地で戦う権利を得た。今でもあの東海大仰星に受けた屈辱は忘れない。

相手は違えど、我々が追っていかなければならないトップ6の一角・大阪桐蔭。

選手のレベル、学校からのバックアップ、伝統、歴史のすべての面で劣っているのは間違いない。あの巨大な選手たちに早稲田の『赤黒』軍団は本気にさせることができるのか?そこには熊澤組から受け継いだ『狂気』が必要。
 

 



 

藤森コーチ
苦しんだ中でも勝利を手に入れることができたのは非常に価値があるね。このようなプレッシャーのかかる試合、そしてスタイルのあるチームに勝つと負けるでは大きな違い。昨年なら勝てなかったと思うけど、今年はその接戦をものにできるような力が早い段階からあった。関西創価は非常に強力なFWがいて、その土俵で勝負すると手に負えなくなる。モールを崩すのはとても難しいので組まれる前にどのようにするのかが大切だったけど、対応していた部分とコミュニケーション不足と指示の不徹底で何回か相手の思い通りにATさせてしまった。ここらへんがまだまだこのチームが甘いところだし、今週1週間の甘さだったかなと思う。結局はモラルハザードなんだよね。あれだけペナルティーはしないでくださいねと言っていたにもかかわらず、ルールを理解していないで無理していくからペナルティーをとられてしまう。ラグビーっていうのは規律が大切で、反則しないで我慢することの繰り返しなんだけど、自分を出しすぎてわがままなプレーをしてしまう。レフリーもコミュニケーションを取ってくれていたのに、その声を聞かなかったのだから、いかに普段から意識が低いか。

他にもゲームの大事なポイントを押さえられず自分たちの首を絞めたシーンがあった。もちろん、ミーティングでは映像を見せながら指摘したけど、各個人認識が甘かった。トライにつながったシーンは自分たちのミスで相手ボールになったところなのに、そのミスを犯した選手がそのシーンを思い出せないんだから。良い選手はその試合の映像を頭の中で思い浮かべることができる。あ、このシーンのこと言ってるんだなと。トップ6になると自分の映像を試合後にチェックする習慣があるけど、うちみたいなまだまだ頂点に立ったことのないチームはその文化や習慣がないね。

それに加えて翌日の体重チェックでほとんどの選手がマイナス。これがうちのチームの現状だと保護者も含めて認識していかなければならない。一流の選手、チームは試合後の体調のコントロールもしている。トップをとるチームがこんな意識が低いですかってこと。BKは特にこの点の意識が低すぎて、このような点もすべて変えていかなければ追いついていけない。反省ばかりだけど良い点もあったし、ここまで来れたのは彼らががんばったから。この1週間最高の準備をしたいと思う。